謎の国家ソマリランド ーそして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリアー
読書の効用として誰かの経験を追体験できるというのが挙げられますが
この本を読むのはただの追体験ではないと先に強調しておきましょう
謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア (集英社文庫)
- 作者: 高野秀行
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2017/06/22
- メディア: 文庫
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どんな内容?
本作は辺境探検家の高野秀行が未知の国家ソマリランドの実態に迫った紀行文です。
(高野秀行氏はTBSの番組『クレイジージャーニー』にも出演されています。)
ソマリランドは国際社会に認められていない自称国家。それにもかかわらずソマリア内戦を独自に終結させ民主化に移行した民主国家なのだそうです。アフリカでは独裁国家が多い中この自称国家は民主化に成功しているというのは注目すべきでしょう。
なぜ民主主義が実現したのかに迫ります。
また内戦によって自称国家は他にも建てられました。プントランドといいます。ここでは海賊が一つの産業となっているという、これもまた不思議な国家です。
あくまで「自称」国家なのでこれらを認めないソマリ人もいるようですが。
興味深かった内容を少しご紹介
日本人と似ているようで真逆な国民性
ソマリ社会は氏族で成り立っています。イメージとしては国民が同じ家系の枠組みでつながっているという感じです。
本家がありそこから分家、分々家と更に細かく枝分かれしていき社会のなかで網目のような体系を形成します。だから初対面のソマリ人同士が出会っても家系を辿っていけば遠い親戚だと簡単にわかるというのです。
家系を大事にするというのは日本史の源氏や平氏、藤原氏のようです。そこで著者は読者にわかりやすいようにソマリの氏族を日本史に出てくる武将に置き換えてその説明をしています。
氏族間や氏族内の問題から内戦が起きましたが、氏族の力で問題を解決してきたというのもまた事実なのであります。氏族の長たちによる話し合いによって互いの武装を解除したという実績もあります。
氏族という網状のシステムは国民同士を監視する抑止力として働いてきたというの話も興味深い。
では日本人とは何が真逆かと言えば、日本人は集団主義、人情を重んじるのに対し彼らは個人主義で、徹底的に実利主義だという点です。
とにかく自分の意見を通そうとしてくるし、金もたくさん要求してくる人たちで、著者は彼らを相手するのに相当苦労しているのが読み取れます。
プントランドが産業として海賊を認めているのもその方が国が‘‘儲かるから’’そうしているのだと著者は推測します。
私としては、なんとわかりやすく単純な人々なんだと思いましたね。
こういった感じでただの海外旅行でも味わうことがないような体験や深い調査、考察がこの本には詰まっています。
感想
本作はソマリランドの実態はもちろんですが、著者のジャーナリストとしての姿勢も学びました。
やはり「郷に入っては郷に従え」というように、ソマリ人の本音を引き出したかったら自分もソマリ人になるしかないということです。著者はソマリ語で現地人と話していますし、現地の嗜好品である「カート」も嗜みます。嗜むどころかヘビーユーザーと化してしまったようですが。
「郷に入っては郷に従え」という原則が当たり前に聞こえますが、この当たり前ができないと素直に新たな価値観や考え方を受け入れることができないでしょう。自分とかけ離れた価値観にショックをうけて外国人嫌いに終始してしまう。
著者はそこを守ってるからこそ、興味深い話を豊富なボリュームで読者に提供してくれているのかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ではまた!